職場のマネジメントを感情面から見る:書籍紹介『職場の「感情」論』

ビジネスにおいては「感情を完全に制御した理知的な人物」のような姿が理想的です。しかし実際には職場で働く人々のパフォーマンスは感情に大きな影響を受けています。メルマガ5月号の記事でも触れたハーズバーグの二要因理論でも職場で働く人々が感情面に影響を受けていることが示され、仕事の満足度に関わる要素(動機付け要因)と仕事の不満に関わる要素(衛生要因)は別の物(例えば「職場に大きな不満はあるが、仕事は大満足」というようなことが成立するということ)とされていますが、今回ご紹介する一冊『職場の「感情」論 相原 孝夫 (著)』はハーズバーグの二要因理論の延長線上にある書籍となります。

本書は序章~終章までの全8章の作り。どういう場合、どのような事態が生じるのかが事例が示され、問題の提起までで章が結ばれる展開が続くので書の内容が動機付け要因と衛生要因のどちらに作用している話をしているかを意識して読む必要性がありますが、それぞれの事例はコロナ化で進んだリモートワークに伴う問題など時節に合わせた内容だったり、逆に時代や企業にかかわらず普遍的な内容だったりと自社のことを顧みて考察する上ではその材料としてよいかもしれません。

中でも『第6章 個の感情をめぐる3つのパラドックス』でテーマアップされている「ライフワークバランス」「ストレス」「仕事への情熱」のパラドックスはきっとみなさまの関心を引くはず。特に私が気に入っている一節は『「ストレスを多く感じること」と「ストレスは体に害だと考えること」の二つがセットになって初めて心身の問題が起きるのであり、ストレスには何らかのメリットがあると思っている人はより健康的で、幸せで、仕事でもいい結果を収めているという部分です。突っ込みどころ満載な話ではあるものの、この「ストレスも動機付け要因になる」という事例はマネジメントを考える上で非常に関心が惹かれます。もちろんマネジメントに応用する際は部下への細かな観察が必要となります。

世間で人手不足の問題が騒がれる遙か以前から中小企業では採用の場面でいつも苦労が発生していました。かつて管理職が発した「お前の代わりはいくらでもいる」などという発言は今や大手企業でもあまり聞かないものとなっています。人手が簡単に得られなくなってしまったこのご時勢、いかに今いる人を活躍させること、定着させることが重要なのかみなさまも常々お考えのことでしょう。そのための論や手法は世に数多くありますが、まず普段から部下、社員の観察と関係性の構築が重要なのではないでしょうか。