外注先で困ったこと-ロット管理ができない

不具合が発生したとき、それがいつ・どの工程で生じ、なぜ流出したのかという原因を特定するための要となるのが、ロット管理による製造条件のトレース、トレーサビリティです。トレーサビリティは自社の不具合の解析をするために用いるだけでなく、取引先から不具合発生の原因と責任を遡及された際、その防波堤の役割も果たします。

ISOが普及してトレーサビリティへの認知は広まりましたが、「いつ、何の材料を受け入れ、誰がどの設備を使い、どのような条件で加工したのか。」をしっかり管理し、記録まで残す習慣は未だ多くの企業でありません。異なる製造ロットの材料を同日に引き渡したとして、外注先でこれを加工した場合、1job_hihyouka_commentator外注工程から自社に納められる頃にはすっかりロットが混入してしまい、「納めた品物はAとBのロットの材料のものですが、どれがA材のもので、どれがB材のものかはわかりませんな」というのがほとんどでしょう。

こうした異なるロットの製品や素材が外注工程で混入する過程には、製造条件とともに製造ロットを管理することより外注先での業務上工程上の都合が優先されたり、トレーサビリティの活用がいまいちピンと来ていないなどの理由が原因となっています。一個一個を逐次加工、処理するような工程では比較的ロットを管理するのは容易ですが、炉や処理層へ決まった量の製品や材料を一回に投入するような工程ではロットの管理よりも作業効率の方が優先されやすい、という具合です。もっと身近な工程だと出荷や次工程への引き渡しの機会などが挙げられるでしょう。荷姿や員数の都合上、一箱当たりの限界員数が50なのにロットが異なるからと言って別の箱に分けたりはしません。客先との取り交わしで荷姿設定を取り交わしているような場合だと1job_kenpin_manもっとこうした事態が起きやすくなります。律儀な企業でさえ、その梱包内に入っている製品がどのロットで構成されているかを明記するまでで、どの製品がどのロットなのか、製品自体に識別をかけたりはしません。

1business_jihyou_manそもそも外注工程を担う企業でトレーサビリティの活用がいまいちピンと来ないのは、彼らにとって事業上そんな管理をするよりもっといい方法があるからです。外注先には切り札の一言があります。「儲からないのに手間ばかりかかって困ります! この仕事からは手を引かせていただきます!」

1money_kakaku_kyousouいくら海外が安いとはいえ、外注工程を担う国内企業のコストは提供される製品の品質やサービスに対して非常に安価といえます。これは裏を返して言えば、外注工程を担う企業が製品やサービスの供給に並々ならない負担をしているということでもあります。そうした企業が製品を取り扱う上でさらなる負担として常に小面倒臭い管理を負うより、万が一の損害賠償のリスクまで折り込んでも場合によっては見切りをつけた方が損得勘定的に妥当と判断するのはある意味で当然ともいえるでしょう。1business_group_shockこうなると発注元は苦渋の善後策をひり出して対応する他なくなり、このまま取引を続けた先、似たようなことがまた起きて頭を抱えることになるのを恐れるようになります。

こうしたことを言い出す企業がダメだと言っているのではありません。利益追求は企業の至上命題。彼らの判断は一面では非常に合理的で正しいといえます。それでもなお、1kaiyaku_keiyakusyo匙を投げることなく発注元からの要望と自社の損益の折り合いの付け所をギリギリまで検討してくれる、そんな企業はないのかと多くの企業が希求してやまないのです。こうしたところにも、私たちの活路が潜んでいるのを見逃してはなりません。